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ミシェル・シュヴァルベ氏の想い出

数日前、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の伝説的コンサートマスターであったミシェル・シュヴァルベ氏が逝去されたとの報道を目にした。


シュヴァルベ氏は、ユダヤ系の音楽家で家族をホロコーストによって失っていたので、カラヤン(戦時中にはナチへの協力が取りざたされた)からの招きとはいえ、スイスからベルリンへと居を移すことは、相当の葛藤があったことと想像する。


そんじょそこらのソリストよりも弾ける人で、カラヤン時代のベルリンフィルを支えた屋台骨の一人であり、英雄の生涯などでとっているソロの美しいことといったら、たまんない感がある。



そんな偉大な音楽家であるシュヴァルベさんと僕は、少しだけお話をしたことがある。
僕がベルリン留学時には、ベルリン・フィルハーモニーホールのオーケストラ・カンティーネにまだ自由に出入りすることができた。そこはオーケストラのメンバーのための軽食や飲み物が売っているところで、僕もそこで何度もご飯を食べていたので、隣のテーブルにパユがいたり、マイヤーがいたり、またまた少し目をやると安永徹さんがコーヒーを飲んでいたりするという、ファンにはたまらない場所なのだ。


そこで飲み物を飲んでいると、ある時腰の曲がったお爺さんが「こんにちは!」と話しかけてきた。妙にテンションの高いジイチャンだなと思ったら、それがあのシュヴァルベさん!!もう僕はおったまげたよ!


それから時々フィルハーモニーホールで会ったときに言葉を交わすようになり、色々な話をしてくれたが、中でも印象に残っている言葉がある。


エフゲニー・キーシンがベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲演奏会をやっていたときのこと、休憩中にシュヴァルベさんに会ったので、マエストロいかがですか?とお尋ねすると、「キーシンはリズムの本質を理解していない、あれでは人工的過ぎる。」とのお言葉。
お前もそう思うだろ?と仰るので、僕は正直にそこまではよくわかりませんと答えた。

するとマエストロはリズムについての即席レクチャーをしてくれ、最後に「すべてのものには固有のリズムがある。花が風に揺らぐときにもリズムが存在しているのだ。」と締め括った。


この言葉に今でも忘れられないほど、衝撃を受けた。

まだまだマエストロが話してくれたことの本質には到達できていないと思うのだけど、この素晴らしい言葉を胸にこれからも学び続けていきたいと思う。

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プロフィール

Noritaka ITO

Author:Noritaka ITO
伊藤憲孝(いとうのりたか)‐ピアノ

1978年生まれ。オランダ・アムステルダム、ドイツ・ベルリンで研鑽を積み、イタリアで行なわれた第18回“チタ・ディ・ヴァレンチノ”国際コンクールで第1位を受賞。日本国内主要都市をはじめ、アメリカ合衆国、ドイツ、オランダ、オーストリア、スロヴァキア、イタリア、セルビア、マレーシア、韓国など世界各国で演奏を行なっている。その演奏は、The New York Times(アメリカ合衆国)をはじめ、Die Neue Zeitschrift für Musik(ドイツ)、Rundfunk Berlin-Brandenburg(ドイツ)などで取り上げられている。スロヴァキア国立歌劇場管弦楽団をはじめ国内外のオーケストラとの共演。室内楽奏者として、NHK交響楽団、サイトウ・キネン・オーケストラ、名古屋フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団、広島交響楽団、ブレーメン・フィルハーモニー管弦楽団、香港シンフォニエッタ、マレーシア国立交響楽団各奏者との共演など、活発に活動を行なっている。
 
録音は、国内でディスク・クラシカよりCD <Beethoven, Activated>と<ベートーヴェン/リスト:交響曲第7番他>をリリース。ヨーロッパにおいては、ベルリンのKreuzberg Recordより世界初録音の4曲を収録したTrio kuのCDアルバムがリリースされている。
また、iNos Recordsよりインターネット配信限定となる<ムソルグスキー:展覧会の絵>、<ブラームス:ピアノ・ソナタ第3番>がiTunes、AmazonMP3などを通して世界111ヶ国の国と地域にリリースされている。
 
現在、福山平成大学准教授、エリザベト音楽大学大学院非常勤講師をつとめると同時に、マレーシアのSEGi College universityでのマスタークラス、トーキョーワンダーサイトでのワークショップなど、各地で後進の指導を行っている。

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